米議会が対日圧力を強める中、ライス国務長官が来日して「米国産牛肉輸入再開=BSE(牛海綿状脳症)全頭検査緩和」問題が、ネットの世界で大きな議論対象になっている。2003年12月に米国でBSE感染牛が見つかって輸入禁止になってからだけでも、随分なメディア報道の蓄積があり、ブロガーが自分たちで見つけてきた資料も豊富になっている。読みこなせていない発言も多々あり、メディアリテラシー力が問われるテーマである。
全頭検査をしていても、流通する
牛肉で病原プリオンがゼロになっていない事実をまず確認したい。検査には検出限界があり、そこまでプリオンの量が増えていない牛は合格してしまう。ではどうするか。脳や脊髄、回腸といったプリオンが貯まる危険部位を全ての牛で除去する。これが徹底できていれば良いのだが、国内でも完璧とは言いがたく、混入ゼロと断言できない。牛同士なら百分の1、あるいは千分の1グラムのプリオンでも感染するとされるが、人間とは種差、種の壁があるからそんな微量では感染すまい――と考えているのが現状だ。
従って、20ヶ月以下の牛を検査対象外にするのは検出不能であるからで、検査して陰性であったとしてもプリオンを持たないと保証するものではない。これがどこまで理解されているだろうか。各種テーマごとに意見を収集しているのが「ブログにコメントGood! or Bad!」。その
「牛肉輸入再開?」は「ブログ記事から内容の濃いものを」15編「独断で選んで」いる。論じ方には色々あって判然としない場合もあるが、読んでみて
過半数の方がどうやら理解できていないと判断した。
レベルの高い例なら「翻訳者魂」の
「圧力に屈し、食の安全性を放棄」はミネソタ州立大のW・ヒューストン博士が「2003年に日本で生後23ヶ月のBSE感染牛が見つかった」ことについて「汚染された飼料を大量に摂取したということでしょうね。汚染飼料を大量に摂取すると、潜伏期間は短くなるのです」と述べた英文記事を紹介しながら、「
生後20ヶ月未満の牛は本当に安全なのだろうか?」と結んでいる。正解はもちろん「安全でない」である。さらに、発見された生後23ヶ月感染牛の周辺には検出限界近くまでプリオンを持った牛がいたと推測できる。
安全を担保できるのは全頭検査ではなくて、危険部位除去の徹底なのだ。輸入再開へ向けて検査を緩和するのか、政府から諮問を受ける、注目の食品安全委員会。その下にあるプリオン専門調査会を昨年8月から傍聴しているという
「BSE&食と感染症 つぶやきブログ」は諮問内容から肉骨粉の混入防止策などが除外され「
危険部位が除去された(ことが前提の)肉の検証」になりそうとのニュースに、眉をひそめている。
同ブログは、3月15日付「NYタイムズ紙が社説で『飼料管理、きっぱり改善すべき・必要なら全頭検査も』と主張」とのニュースも伝えている。社説の原文は台湾のサイトに転載された
「The beef merry-go-round」で読める。ニューヨーク・タイムズまで全頭検査を言い出したのかと誤解しない方がよい。日本の緊急避難的な全頭検査とは趣旨が違う。米国の検査規模は非常に小さく、感染の恐れがある牛の肉骨粉への転用、飼料への使用規制もしり抜けになっている可能性が高い。牛肉の国際取引を再開するために、
食物連鎖の輪からBSEプリオンを一度、完全に排除する必要があり、そのためになら全頭検査も厭うなと読める。
いずれにせよ、ライス国務長官の日本での発言「国際的な、科学的な根拠に基づいた基準が存在する。日本は、ぜひ世界基準にしたがっていくよう望む」とは違う思想であることだけは間違いない。
【
2006/1/30追加】米国からの輸出再開で危険部位付き肉が早速見つかりました。今日の国会の論議で明らかになったように、事前調査する閣議決定にも背いていたとなれば、安全を担保するための約束を守らせる気が無かったと言われても、政府は言い訳できない状況です。中川農水相の弁解「輸入を再開してみなければ適正に履行しているか判断できない」とは、語るに落ちた観ありです。