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by ydando
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子供が科学に関心を持てない日本の悲劇  [ブログ時評86]
 経済協力開発機構(OECD)による2006年・国際学習到達度調査(PISA)の結果が公表され、2003年調査で読解力の順位が落ちてショックを与えたのに続き、今回は数学と科学の応用力(リテラシー)まで地滑り的に低下、世界のトップクラスに属するとは言えなくなった。参加国が増えた点などを取り上げて、必ずしも日本の学力が落ちたと言えないと抗弁する向きもあるが、理科学習への関心や意欲を尋ねたアンケート結果はそれを吹き飛ばすものだった。毎日・朝日両紙によると「役立つ」や「将来の仕事の可能性を広げる」など動機付けの関わる項目でOECD諸国平均より14~25ポイント低く、科学についての読書、番組視聴、記事閲覧が参加57国・地域で最下位だった。

 2000年調査から日本の順位を並べると、「読解力」8位→14位→15位、「数学」1位→6位→10位、「科学」2位→2位→6位。読解力で韓国、数学で台湾、科学でフィンランドがそれぞれ1位になっている。文部科学省の「国際学力調査」ページには、過去との比較や上記アンケート結果の発表部分が無く不満だ。前回結果発表で「ゆとり教育」で学習内容や授業時間数を大幅削減したことに批判が集まり、既に元に戻す方向に舵はきられているのだが、今回結果を受けてさらに前倒しする勢いになった。

 「PISAの結果をどう考える?」(大学プロデューサーズ・ノート)は「実際、今回の結果については、『授業時間を減少させたことが原因だ』と論じているメディアも非常に多いです。ただ、興味深いことに、今回も栄えある一位となったフィンランドは、日本よりも学習時間が短いんです」と指摘する。必修の指導時間(平均値)は次のようだという。
          日本    フィンランド
     7~8歳 707時間  530時間
    9~11歳 774時間  654時間
   12~14歳 869時間  796時間
 そして、良質の教師をそろえ落ちこぼれが出ないように努力しているフィンランドに対し、日本の事情は違うとする。「日本の小中学校教員の労働時間(授業以外の事務も含む)は世界トップクラス。教育現場にはあまり余裕がないと聞きます」「ただ授業時間だけを増やしたら、かえって『たくさんの子が置き去りになり、それを教師がフォローできない』という、フィンランドとはむしろ逆の環境に繋がってしまう可能性もありますが、どうなのでしょうか」

 「応用力低下の元凶は日本社会自体の問題だ」(べそかきpaintboxの言いたい放題)は体験を交えながら理系冷遇社会が元凶とする。「日本の現代社会で、活躍して名前がマスコミに踊っている人たち、そして高給を得ている人たち、のほとんどは文系の人です。理系の人間で、多額の特許報酬を求めれば、青色レーザー発光ダイオードを開発した中村修二さんのように、特許はおまえ一人の努力ではない、などと言って袋叩きにするのです」「私のように国産OS、国産CPUの開発を目指して、連日徹夜の努力を続けた人間の行き先は、離婚して最愛の子どもと生き別れ、いくら国産のITビジネス振興を訴えても誰も振り向きもしない。これでいて高校生に理数系を目指せ、と言う方が無理ですね」

 「12月5日(水)PISAの結果発表」(校長日記)は「『理系への夢』が日本の子供たちにはあったと思う。どうしてこのようになったか?」「手っ取り早く『お金をいっぱい稼げる仕事』『アルバイトに精を出し』『しんどいことはいややねん』『楽しいことがしたいねん』『数学知ってなんの役に立つの』等々、『製造業や科学技術の世界から離れたところに子供を追いやったら日本は終わり』だ。額に汗し、手を使って物を作る喜びを感じさせてやりたい。大学の工学部で学び鉄鋼会社で物を作る喜びで人生を過ごしてきた私だけに、なおさらそのように思う」と書くのだが、子どもたちの心に響くかどうか。

 理系冷遇について「青色LED和解で理系冷遇は変わるか [ブログ時評07]」などで分析してきた。データが古くなったので、人事院「民間給与の実態」を使って2006年ベース、企業規模500人以上で文系・理系の幹部の平均給与月額を並べてみる。
          44-48歳   48-52歳   52-56歳  
  支店長    748,508円  779,207円  775,261円
  事務部長  717,250円  748,124円  761,504円
  事務課長  602,360円  609,667円  617,661円
  工場長    611,446円  725,078円  750,205円
  技術部長  654,825円  694,189円  718,234円
  技術課長  590,206円  607,898円  614,505円

 これは毎月決まって支給される額でボーナスは含まない。ほぼ同格と思われる事務部長と技術部長の間で、給与格差が5万円前後とはっきりしている。これでも10年前のデータを使った上記の連載記事の表よりはぐんと縮まっているのだ。同じような規模の企業に勤めてこの文理格差になる原因は、日本の製造業が薄利多売に走った創業期体質から脱出できず、いつまでも利益率が低いからだと考える。それはまた、国内で同業メーカーがひしめくからでもある。そうした日本メーカーの体質・行動は世界規模で歪みを生じ、科学技術立国の次代を担う子供たちをして科学に関心を持てなくさせる悲劇につながる。ケーススタディとして第151回「日本の自動車産業は世界を幸せにしない」(改)を挙げておく。
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# by ydando | 2007-12-09 20:14 | 社会・教育
患者公園置き去りに見る医療政策の貧困 [ブログ時評85]
 大阪府堺市の新金岡豊川総合病院の職員4人が糖尿病で全盲の男性患者(63)を退院させ前妻宅に連れて行ったものの引き取りを拒否され、大阪市西成区の公園に男性を荷物ごと放置する事件が9月に起きていた。西成署は保護責任者遺棄容疑で調べている。マイケル・ムーア監督の最新ドキュメンタリー映画「SICKO」(病気を意味する俗語)で医療費を払えない患者を平気で病院から放り出す米国医療事情が紹介されたばかりだ。日本でも現実になったことに唖然としてしまった。

 この患者は7年前から入院し、2年前からは医療費自己負担分を払わなかったので未収金は185万円になっていた。3年前から退院可能なのに動こうとせず、看護師や他の患者に迷惑をかけたり備品を壊したりしたので、6人部屋を1人で使わせる状態だった。最近になって前妻宅が自宅と判明、職員が前妻に連絡せずに退院手続きをとった。前妻に拒まれた後、公園に置き去りにしてから職員の1人が119番に匿名で通報していた。

 「大阪患者公園置き去り事件」(新小児科医のつぶやき)は医療関係者の視点でこう分析する。「生活保護の打ち切りは病院もすぐに分かりますし、打ち切られれば治療費の支払いに支障を来たしますから、打ち切られたことを患者に話し、再開申請の手続きを何故行なわなかったかです」「他施設への移転話もどの時期に行なわれたか分かりませんが、生活保護が打ち切られ、障害者年金も前妻が持ち逃げしている状態なら事実上不可能です。問題行動の多い患者を引き取る事さえ難色を示すでしょうし、自己負担分も出て来そうにないのならどこでもお断りでしょう」「病院側が行なった公園置き去りは許されざる行為である事はもう一度念を押しておきます。念を押した上であえて好意的に解釈すると、病院側の申し出を悉く拒否した患者に対するショック療法とも考える事ができます。手段が乱暴なのは言うまでもありませんが、この事件は単なる置き去りではなく、置き去ったその場で119番通報を行なっています。批判されるべき方法ですが、他の医療機関に連絡していると見れます」

 「置き去りは論外だが」(医療報道を斬る)は事件後、10月末に堺市保健所が医療法に定める職員の監督を怠ったとして病院を行政指導していることを取り上げて批判する。「病院もまた被害者であることがよく分かる。むしろ、患者や、年金を管理している前妻は善意の被害者などではないことが分かる。黒字の病院でも利益率は微々たるものだ。未収金があればすぐに赤字に転落するだろう。まして、営業妨害まであれば、どうにかして追い出したいのは当然だ。その様な状況を放置しないですむシステムを構築するのが行政の役目ではないのか。自分たちの怠慢を棚に上げて行政指導とは何事だろう」

 この患者のように病状は安定しているのに引き取り手がない「社会的入院」が医療費を膨らませている元凶と考える厚生労働省は、病床数の大規模削減に乗り出している。昨年、全国の療養病床約38万床を、2012年度までに約15万床に減らす方針を打ち出し、既に各地方で具体的な削減計画が立てられ始めている。診療報酬の改定も療養病床の運営に不利な仕組みになってきた。また、総務省の公立病院改革懇談会が、病床の利用率が3年連続して70%未満の公立病院に対し、病床数の削減や診療所への転換を求めるガイドラインをまとめた。

 日本の病床数が多すぎるから社会的入院を生んでいると言われてきた。例えば人口1000人当たり病床数は日本が米国の4倍にもなる。ところが、米国には統計に現れない病床が多数あると、「『日本の病床数過剰』説のトリックを明かす」(日経メディカル ブログ 本田宏の「勤務医よ、闘え!」)が指摘している。医師が配置されず、医療は開業医が担当するために病院としてカウントされない「ナーシングホーム(NH)」が大量にあるのだ。「米国ではNHが亜急性期以降の治療や、人工呼吸器をつけた患者も収容し、終末期も担当しているようです。ここで死を迎える人は全死亡者の19%といわれ、日本の療養病床のイメージとまさに重なるのです」

 NHを加えて病床数の日米比較をすると、以下の表になる。

【医療提供施設別病床数日米比較】
       (1000人当たり病床数)
  日本        米国 
一般病床 7.1  短期入院病床 3.1
療養病床 2.7  長期入院病床 0.1
精神病床 2.8  精神入院病床 0.3
結核病床 0.1  NH       6.8
病床合計 12.8  病床合計   10.3

 日本の「一般病床+療養病床」が「9.8」、米国の「短期入院病床+NH」が「9.9」とほぼ釣り合っている。日米差のほとんどは精神病床の差になってしまう。この均衡を無視して、国は療養病床を半分以下に削減しようとしている。社会的入院による医療費無駄使いは確かに存在するが、受け皿が無い高齢者や単身者を社会全体でどう処遇するのか考えられていない。急速に社会的入院を追放したら、公園への置き去りが例外的な事件でなくなってしまわないか。生活保護の出し渋りなど、セーフティネットのほころびが目立つ昨今だけに強く危惧する。

【関連】看護師不足起こし老人医療放棄を強行 [ブログ時評57]
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# by ydando | 2007-11-18 18:12 | 食・健康
学力調査結果と離婚率、生涯未婚率
 全国学力調査の結果をメディアが一斉に流しています。都道府県別では沖縄、高知、大阪あたりが下位で厳しいよう。北海道や九州も下位グループに入るようです。上位グループは秋田、福井、富山、石川など東北・北陸が占めています。この傾向と合致する社会経済データで真っ先に浮かぶのが離婚率です。

 直ぐに取り出せるところで「図録▽都道府県別の離婚率」(社会実情データ図録)を見て下さい。グラフの説明を引用するとこうです。「都道府県の中で離婚率が最も高いのは沖縄の2.71(件/千人)であり、大阪(2.43)、北海道(2.42)がこれに続いている。逆に、離婚率の最も低い県は、新潟(1.49)であり、島根(1.52)がこれに次いでいる。この他、富山、石川、秋田など、北陸から東北の日本海側にかけてで離婚率が低くなっている」

 高知は以前の勤務地で、昔はもっと離婚率が高く全国トップを争ったものです。警察・司法を担当していたので家裁の調査官に取材したこともありました。離婚した結果は母子家庭とかになる訳で、勉強に身が入らないこともあろうかと思いますが、もっと大きな社会的な雰囲気が影響することもあり得ます。

 北陸は男性の生涯未婚率(50歳時点の未婚率)が際立って低い特色もあります。「表12-37 都道府県,性別生涯未婚率:1920~2000年」で確認して下さい。逆に沖縄・高知・大阪はこれも高いですね。北陸では浄土真宗などの宗教的な基盤が効いているようにも感じています。

 離婚率が万能でないのは島根をみれば分かります。離婚率は全国で2番目に低いのに、学力調査は中位グループです。また、生涯未婚率最高はもちろん東京ですから調査結果とは合いません。社会にあるもっと多くの、様々なファクターが影響するはずです。

 ※参考までに 第152回「20代男性の3人に1人は生涯未婚の恐れ」をあげておきます。
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# by ydando | 2007-10-25 16:30 | 社会・教育
若い男は体形も生活もオヤジ世代と決別 [ブログ時評84]
 経済産業省は10月初め、人体データの計測結果「size-JPN 2004-2006」をとりまとめて発表した。工業製品の寸法を決めるために前回1992~1994年にも実施しており、比べると男性の30歳以上は体格が大きくなり太り気味なのに、女性は肥満度を示すBMI値(体重(kg)/(身長(m)の二乗)が大きく下がり細身になる傾向がみられた。「太る男性とやせる女性」の構図自体は以前から知られていることで、例えば私も2000年に第83回「続・肥満と食欲の仕掛け」で国民栄養調査をもとに論じた。その英語版「Men Getting Fatter, Women Getting Thinner」は私の英語サイトで最も読まれているファイルの一つだ。しかし、今回の発表で示された20代前半男性の体形データは極めて特異で、男性の領域から離れ、女性に急接近していた。まさに目を疑う思いがした。

 発表された「今回と前回(1992年~1994年)の平均値グラフ」そのものを引用するのが分かりやすい。(小さすぎて見にくい方は原グラフを参照してください)
b0071191_1533180.jpg

 BMIや臀突囲で特に著しく、バスト囲でも相当程度、20代前半男性だけが同世代の女性の値に接近している。詰まるところ、この男性たちは太りすぎている年上世代と決別し、スレンダー志向の同世代女性と並んで生きようとしているのだろう。国民健康・栄養調査の結果を時系列で並べると、もっと見えてくる傾向がある。

 ●肥満の割合(BMIが25以上) 単位:%
     15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70歳以上
 男性
  昭和54年  6.0  9.2  16.3  21.3   19.1  16.5  14.6
  平成10年 11.4  19.0  30.6  29.0  29.0  29.8  20.1
  平成15年 12.2  14.8  32.7  34.4   30.9  30.7  20.9
 女性
  昭和54年  4.5  7.1   14.1  24.7   27.7   26.9  25.1
  平成10年  6.1  7.0   13.9  19.5   26.3  31.3  27.1
  平成15年  6.9  8.1   12.6  19.8  23.8  30.3  28.3

 ○やせの割合(BMIが18.5以下)
     15-19 20-29 30-39 40-49 50-59 60-69 70歳以上
 男性
  昭和54年 15.3    8.4   4.3  4.1  6.0   9.5   17.0
  平成10年 16.3   8.3   3.8   3.6   2.8   4.0  11.6
  平成15年 18.6    8.0   5.1  1.6  2.8   3.2  11.2
 女性
  昭和54年 13.5  14.4   9.2  4.7  6.1  10.2  12.5
  平成10年 20.4  20.3  12.8  4.5   4.3   3.7  10.6
  平成15年 16.3  23.4  14.7  7.2   6.6   6.4   8.9

 平成10年(1998)には20代までも年上世代に習って肥満の道に進むかに見えたのに、平成15年(2003)には20代の肥満は減り、30代以上とは違ってきた。その原因は10代後半男性にあるように見える。「やせ」型の割合が同世代女性を上回る勢いで増えている。ただ、私には、あまり健康的とは思えない。

 20代を中心に若い女性に「やせ」型が異様に多い理由について「図録▽男女の体型(肥満・やせ)の実際と自己認識」(社会実情データ図録)は「特異なのは、女性の10代後半から30歳代であり、男性以上に実際より太っていると思っており、また実際はやせているのにやせていると思っている人は少ない。20代女性では、5.4%しか太っていないのに41.4%が『太っていると思う』と答えており、21.4%は低体重(やせすぎ)なのに、『やせていると思う』は15.0%とそれをかなり下回っている」「こうした若年女子の特異な自己認識(スレンダー志向)が、低体重(やせすぎ)を生んでいることは明瞭である」と分析している。

 ブログの声「size-JPN 2004-2006の調査結果」も「最近の女性をみていると、痩せているというよりもやつれている感じの女性が多いような気がします。女性はもっと健康的に太るべきではないでしょうか。拒食症キャンペーンなどの広告をみているとそんな感じがします」とみるのだが、若い男性たちはその女性像に、にじり寄ろうとしている。

 8月22日に日経流通新聞が首都圏に住む若い世代の消費行動について、興味深い「MJ若者意識調査」を紙面に出した。「いつも車や酒を好むとは限らない20歳代の消費行動」(Klugクルーク)は結果を引用して、こう指摘する。「20歳代の回答者のうち、お酒を全く飲まないか、月に1回以下しか飲まない割合は34%、休日をほとんど家で過ごす、もしくは家で過ごすことが多い方の割合は43%と半数近くを占めています。日経流通新聞では、こうした調査結果を引用し、『巣ごもる20代』と大きく見出しをつけ、今の20歳代は、堅実で小規模な暮らしを好むと報じています」「人間は時代や世相の影響を受け、行動様式を周囲の環境に応じて変化させるものです。若者はお酒や車が好き、若者は貯蓄よりも消費を広げる、という考え方は、戦後の日本経済を語る上で典型的なものだったかもしれません。しかし、人間を相手にビジネスをする以上、企業も顧客の変化にあわせて企業活動を変えていく必要があるのでしょう」

 MJ若者意識調査を見た際、分かるようでいて、もうひとつ腑に落ちないものが残った。体形というものは主に食生活から生み出されるから、優れて生き方の産物だ。今回の発表を分析して、善し悪しは別ながら、若い世代の男たちがオヤジ世代とは違う生き方を選択したのだと理解すれば納得がいく。「太る男性とやせる女性」という対立構図ばかりがメディアで流されたが、実はその構図の終焉こそが語られていたのだった。もちろん、バブル崩壊後の長い就職難、非正規雇用が3分の1に達する中で生まれた将来への不安などを背景にしてだ。


お知らせ=続報が「『男も痩せ型』若者変貌と非正規雇用」
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# by ydando | 2007-10-08 15:47 | 食・健康
お産の危機は首都圏にこそ迫っている [ブログ時評83]
 奈良県の町立病院で出産途中に意識不明に陥った妊婦の搬送を19病院が受け入れず6時間後に大阪・吹田の国立循環器病センターで手術を受け死亡した事故から1年余り、また奈良で救急車を呼んだ妊婦(38)が9病院から搬送を断られて車内で死産した。奈良県ではこの1年間、何ら有効な対策を進められなかった事実が明らかになるとともに、北海道、宮城、新潟、千葉、神奈川などでも同様の搬送拒否が相次いでいることが報じられるようになった。東京を中心にした東日本のマスメディアがようやく他人事でないと気付き始めた。それなら申し上げなければならない。お産の危機が迫っているのは離島でも過疎地でもなく、首都圏なのだと。

 お産現場の実状は「神奈川県の現状」(レジデント初期研修用資料)にある通りなのだ。「このあいだ遊びに来た下級生の話」「奈良県の産科事例、例の19病院が救急搬入を断った話は、現場では誰も驚かなかった。神奈川では、20病院以上に声をかけても搬入先がみつからないのは日常茶飯事だから」

 人口に対する医師数が西高東低であることが広く知られている。産科医はどうか。日本産科婦人科学会が実際に産科を扱っている医師数を「分娩取り扱い施設数及び常勤医師数のデータ」で調べているので、それに産科医1人当たりの人口も加えて関東と近畿を比べよう。

   産科医数 出生/医師 人口/医師
 茨城  149  176   19,967
 栃木  153  116   13,179
 群馬  108  164   18,741
 埼玉  231  268   30,535
 千葉  306  173   19,791
 東京  733  127   17,150
 神奈川 506  157   17,373
         関東計 18,979
 滋賀   86  158   16,051
 京都  195  113   13,577
 大阪  724  110   12,178
 兵庫  301  165   18,573
 奈良   72  163   19,741
 和歌山  73  112   14,193
         近畿計 14,399
 全国  7937  135   16,096

 東京と大阪に多少はゆとりがあり、地区全体の緩衝材になっている。北関東の栃木、北近畿の京都も同様に余裕がありそうで、それぞれ北部のお産需要を吸収しているのだろう。問題はどちらも南部にある。近畿で奈良が厳しい状況にあると知って関東を見れば、千葉や茨城では産科医1人当たりの人口が2万人に迫り、奈良を超えている。それどころか3万人を超えている埼玉がある。埼玉の産科医が優秀で全国平均の2倍の出産をこなしているということはあり得ないので、何割かの妊婦が埼玉県外で出産しているはずだ。既に満足に地元で産めない県が出現しているのだ。

 搬送拒否続出が常態という神奈川。救急搬送が必要な妊婦のを受け入れてくれる病院を探すのに、医師に代わって県救急医療中央情報センターの職員が24時間態勢で取り組むことになったと報じられた。「産科の電話代行業 でも責任は?『神奈川県が妊婦搬送先探し代行、産科医の負担軽減へ』」(勤務医 開業つれづれ日記)は「同センターでは、職員11人が3人ずつ交代で、24時間態勢でこの作業を代行」「24時間体制を作るには、これが正しい労働基準。しかし、これほどの産科医がいる病院はほとんど無いのではないでしょうか」と医師側の勤務実態を無視したシステム作りに嘆息する。そして、4月からの試験実施で8つある基幹病院から「152件の依頼を受け、88件で受け入れ先を確保」と報じられていることに、コメント欄は「確保されなかった時点でマスコミ用語の『7件のたらい回し』が発生している事になります。それが5ヶ月で64件。神奈川の産科事情の厳しさがよくわかります」と反応する。人口が大きい神奈川から県外に救急搬送される妊婦の数は奈良の比ではないらしい。

 9月、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は舛添厚生労働相に「産科救急医療対策の整備」と「産婦人科医師不足問題への対策」についての「陳情書」を手渡した。「政府・与党の緊急医師確保対策」に対する「意見書」も提出しており、産科医側の意見が行政のトップに伝えられた。「産科医が減っているのは、お産需要の減少を反映しているにすぎない」と国会答弁した前の厚生労働大臣にも7月に陳情書を出したが、8月末に政府与党から公表された緊急対策案には不満が大きかった。

 意見書は政府与党の対策に手厳しい。例えば目玉になっている医師不足地域に緊急に医師を派遣するシステムになら「地方病院においては既に、相当な好条件を提示しても全く希望者がいない、という現状で、どのように派遣する医師のプールを作るのか」と問う。医師不足に対する「緊急臨時的な増加策が、その地域・診療科にとって継続的な効果をもつためには、緊急対策をとっている間に抜本的な解決策が同時にすすめられなければならないことは明らかである。今回の対策にはその点での検討が十分に含まれているとは言い難い」

 しかし、今回出した陳情書の中身が実現したとしても、直面しているお産の危機を打開できるのだろうか。奈良の死産妊婦(38)は妊娠7ヶ月なのに産科を受診していなかった。陳情書は「新たに策定される必要がある総合的な対策においては、未受診妊婦を含む産婦人科一次救急症例への対応が、各地域において明確に規定される必要がある」と述べるが、産科医が首都圏でさえ絶対的に足りない、産科施設が次々に閉鎖される中で何が出来るのか。

【関連】医療崩壊が産科から始まってしまった [ブログ時評59]
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# by ydando | 2007-09-17 22:36 | 食・健康